大貫 妙子
1953年(昭和28年)11月28日東京都杉並区生まれ。
小学校1年の時、クラシックピアノを、中学時代にフォーク・ギターを始め、音楽活動を始める。
1972年、東京・四ツ谷のロック喫茶で山下達郎らと出会い、翌年7月にバンド、シュガー・ベイブを結成。
同年9月21日、はっぴいえんどの解散コンサートに出演。
1976年にソロアルバム「グレイ・スカイズ」を発売。以降、ソロ活動に入る。
音楽活動のかたわら86年に「アフリカ」。90年に「ガラパゴス」91年に「南極」
92年に「アフリカ」などに行き文筆活動も行う。
1994年4月に山下達郎が行ったコンサ−ト「SINGS SUGAR BABE」にゲスト出演。96年、映画「Shall we ダンス?」の主題歌を担当。97年10月に映画「東京日和」のサウンドトラックを発売。同アルバムで第21回日本アカデミー賞最優秀音楽賞受賞賞。
2000年6月 アルバム「アンサンブル」
2000年7月 奥田民生 鈴木慶一 宮沢和史 矢野顕子らを集めたコンサート「ビューティフル・ソングス」に参加。
2000年10月18日: そのライブ盤「ライブ・ビューティフルソングス」をリリース。
2000年10月25日にシングル「ただ」をリリース。
【油井】こないだね、あの、ある雑誌の取材でお目にかかったんですよね。
【大貫】はい
【油井】久しぶりに、
【大貫】そうです、はい。ご無沙汰していまして。
【油井】今日はじっくりお話を伺おうと思いましてお越し頂きました。どうもありがとうございます。
【大貫】よろしくお願いします。

【油井】この番組はね、CMの間も波の音がただよっているんですよザバッと(笑)
そんなのあんまりないと思うんですけど。オレ実はね妙子ちゃんの曲・・・オレがまだ・・・何年前かなぁ・・・15年ぐらい前にテレビの番組(制作)の仕事をずっとやってて、その時に何度か使わせて頂いたんですよね。それでね、その頃から波っていうと、なんか(大貫さんを)感じちゃうんだよね。そういう意識ある?
【大貫】う〜ん、意識はないけど、なんかわかる気はします。
【油井】で、それからのおつき合いっていうかね、何年になるんですかね?
【大貫】・・・記憶が(笑)
【油井】とにかく10年以上前・・・
【長井】長いおつき合いなんですね。
【油井】夕陽があたっている雲がジャケットになってますね、そこにTada・・・というね。
【長井】ジーンとくる詞がいっぱいはいってますね。
【大貫】ただじゃないんだけどねCDは(笑)
あのぉ「ただ・・・」という日本語があるじゃないですか。「ただ、それだけでいい」とか、「ただ、そこにいて」とか、「ただ」という、そういう唯一それだけでいいっていうね、の意味なんですけど。
【油井】オレも真面目にそういう事考えるときあるんですよ、オレでもね(笑)
オレはね過去も未来もないって思ってて、この瞬間?ただこのいっときだけっていうのが事実としてある、その事実もたとえばその、ここにコップがあって手で触るじゃん。あったかかったり冷たかったりするよね。今この瞬間あったかかったり冷たいんだけど、でも脳に伝達するまでに時間がかかるから、それすら今ではないっていうかさ。なんかあるようでないような現実を生きていると思うと何となく気楽になるっていうか、いい意味での「まぁいいか」っていうね。なんかそういう事も聴こえたんだよね。
New sg.[Tada]
【大貫】今の曲(Tada)は「どれだけ無防備になれる相手がいるか・・・自分にとって」っていうのが基本なんですけどね。ま、夫婦でもそうだけど、元は他人じゃないですか。だから親とは違ってなかなか無防備にはなれないというのがありますよね・・・でもまぁ長い間には無防備になっちゃうんだけど・・・でも、単にあけっぴろげの無防備っていうよりは、なんか「ガーッ」といびきかいてお互いに寝てるとか、そういうのではなくて、やっぱりどれだけその人の側にいると「安らげるのか」だったり「安心」出来たり・・・何も話さなくとも、そういう関係があるといいねっていう、そういう歌詞なんですけどね。
【油井】オレ大貫妙子の印象っていうのはさ、長年ず〜っと変わってないのね。それって一体どうやって維持出来るっていうかさぁ・・・
【大貫】う〜んやっぱり、自分が見てるものしか見ないっていう。
【油井】でもそれは人に影響を受けないっていう事じゃないじゃん。
【大貫】影響は受けてますよ。
【長井】影響を受けているのは、日本のアーティストですか、海外?
【大貫】海外ですねほとんど。音楽は海外ですけど、例えば日本画とかそういうものは日本のアーティスト、陶芸とかは凄く多いですよね。
【油井】あぁそうかアートだもんね、別に音楽に限らない・・・
【大貫】すべてのものですね。例えば画家でもマチスとか好きだけど、やっぱり血の中になんかないんだよね。
【油井】ああ、それは意味わかるよね。
【大貫】やっぱり日本画になっちゃうんですよ、なんかぐちゅぐちゅするというような感動っていうのは。
【油井】それも凄くわかるけど、オレは若い頃はそうじゃなかった。
【大貫】若い頃は同じ、やっぱり西洋のものがよかった。
【油井】あれなんだろね、あのほら、だんだんわかってくる・・・ていうんじゃなくて
【大貫】洗練が・・・日本画の素晴らしいものって極端に洗練されている。だから生きることって洗練されていく事だと思うんですよ人間が。で、無駄をとってどんどん綺麗にシェイプアップされていくんだと思う、そういう意味でやっぱり若い時はわからないんだと思うんですよ。
【油井】そうなんだよね。で、勿論若い頃に思った外国・・・割合いばたくさいものだったり?結構衝撃に惹かれちゃうじゃない?そうすると最後には、墨をつけた筆でひとすじスッと書いたものの中に、本物を見ちゃったりするようになってくるんだろうね。
【大貫】えぇそうですね。
【油井】そういう事を含めて考えると、例えば言葉っていうのを選んで落として、あのそれこそ山本周五郎・・・好きなんですけど・・・通俗小説を書いているように言うけど、とてもじゃない一行一行をどれだけ苦労して書いてるかわからないくらい捨ててるでしょ言葉を。ついつい居住まいを正して読んでしまうような、なんかそういうのってあるよね。【大貫】でもまぁ60年代からずっと聞いてきて、でも外国(アーティスト)にとっても育ててくれる音楽ってあるじゃないですか、それと別にクラシック音楽ってのがあって。でももう結局新しいテクニックとか・・・テクニックはどんどん向上してるんだけど、楽器の上でのテクニックですよね。そんなものをどんどん駆使しても、もう行き着くところまで来てるんじゃないかっていう気がしてて、そうするとやっぱりクラシックにどんどん自分が戻っていくっていうか。
【油井】そういう風にされながら、この前出した最新アルバム・・・
【長井】これはどんな?
【大貫】今年の夏に、5人のアーティストでまわったんですけど。奥田民生と鈴木慶一さんと宮沢和史さんと矢野顕子さんと私で。そのライブツアーのCDが出来たんで。
【油井】これは、じゃライブの録音?
【大貫】そうです。
それじゃ、ピーターラビットを聞いてください・・・途中で男性陣が野太い声でコーラスをやってんのよ(笑)結構面白いんで聞いてください。
BeautifulSongs
【油井】楽しいよね。どうしてこのメンバー・・・これ結構何故?って感じあるよね。
【大貫】バラバラですよね(笑)もともとは矢野さんと二人で・・・あのぉ色んな音楽のカタチってあると思うけど、売れるために作るっていうものもあると思うんですよ。だけどそういうものではなくて、こういう曲が書きたいんだっていう・・・自分の為にどうしてもこの曲を書きたいっていう曲を集めたコンサートがあってもいいんじゃないかっていう・・・
【油井】それはしかし、ある意味理想だよね。それで観客が付いてきてくれて。
【大貫】だから、そういう曲を書いてる人っていう。
【油井】そうだねみんなね。あるほどなるほど。
【油井】ツアーの話が出たんで「旅」の話を聴こうと思うんだけど。
国内だけではなくよく行かれるでしょう。まぁみなさんご存じと思うけど、大抵極地ですよねぇ。アフリカ・・・アフリカは何度も行ったでしょ。
【大貫】アフリカは延べ1年ぐらいかな。
【長井】うぁ・・・アフリカの魅力って何ですか?
【大貫】言葉で説明できればいんだけど・・・流れてる時間がまず違うでしょ。あのさっきの「ただ」の話じゃないけれど、あたしたちって次の年までスケジールに書いたりするじゃないですか、来年の予定とか。そんな事ヘンじゃない?。ヘンていうか、未来があるだろうと想定して・・・そこに生きてるんだけど、実際は地球に住む人間以外のすべてのものは「今」しか生きてないんですよね。その為の真剣さっていうか、そういうのをまのあたりに見るし・・・それにやっぱり面白いのは、見たことがない事がいっぱい起こる。
【油井】想像を絶する・・・ね。
【大貫】そうですよね。
【油井】特にアフリカもそうだし、野生の地に行くと、アタマん中ではアフリカってだいたいこうだってわかってるけど、実は全然違うっていうのが、山ほど押し寄せてくるよね(笑)
【大貫】だから例えばライオンはこうであるとか、ハイエナはこうであるとか言われてたけども、毎日見てると全然違うんですよ。あんな事もするし、木にも登るし。
【長井】ライオンが木に登る?
【大貫】登りますよ。
【油井】ゾウとかカバがおっかないとかね。想像付かないけどあるんだよな。
【大貫】結局情報っていっぱいあるけど、自分の目で見た情報だけが真実であるっていう気持ちなんですよね。で、都会にいて、飲んだりしながら話す事は、みんな誰かから持ってきた情報って事が多いってことないですか?どっかに書いてあったとか。テレビで見た事とか、でもそんなの違うことかもしれないし、「あの人」の言った事でしょ。それはやっぱり「あなた」の意見ではないじゃない。っていうのが私の気持ち・・・
【油井】うん、いいねぇ。
【大貫】だからそういう意味では、いろんな経験をなさっている方の・・・別にアウトドアしなくてもいんですけど、例えばなんか作ってる人とか、その人々の気持ちっていうのが自分にとっては生の声で真の情報なんですよ。
〜ensemble より「太陽の人」を聞いて〜

【油井】「太陽の人」の、あれはスペインの人?ギター凄いですね。なんで、世界中で録音しようと?
【大貫】あの、日本にこういう方がいらっしゃればいんですけど・・・やりたい人が日本にいないので、そこに行くだけです自分が。
【油井】しかし、当然そこでばったり始めて会う?
【大貫】そういう事じゃないんですけどね、この人は日本にスペインの歌手が来ていた時にその人のバック・・・たまたま見に行ったんですよコンサート。「いや、この人たちとやりたい!」って思ってしまって、追いかけて行ったっていうか。

ensemble
【油井】でもまあ、ものを作る作り手のひとりとして、メンドクサイ事が多いじゃないですか、なんかこう要求したことを満足させようと思うと。
【大貫】体力いりますよ。もうホントに!体力が勝負だと思う。でも体力は落ちないように色々やってるんですけど。
【油井】そう?
【大貫】体力落ちると、気力も落ちちゃうんですよね。メンドクサイとか・・・そうなるともう、ほんとに地の果てまでレコーディングに行くなんて出来ないですよ。
【油井】なるほど(笑)
大人の世界がないって最近・・・昔からか、よく耳にするじゃないですか。大人の世界って具体的になんなの?・・・大貫妙子の世界って大人の世界だよね。
【大貫】年齢相応にやっているという意味ではね(笑)
【油井】年齢っていう事じゃなくて、なんかの拍子に「大人の世界」が今ないね、とか「大人の飲み屋」が今ないね、っていう言い方があるでしょ。それって何?っていうと、今度から「大貫妙子の世界あるじゃん」っていうとみんな分かり易いかも知れないよ。
【大貫】(笑)・・・お願いします。
【油井】是非いつまでも、いい歌を沢山聴かせていただきたいと思います。
ものすごく女っぽく優しかったり、
夢見る少女っぽかったり、
時にはすっごく強かったり、
いろいろあって大貫妙子さんという存在。
思い切りステキな人ですね、やっぱり。
長井律子 + 大貫妙子さん + 油井昌由樹