目に涙がなければ魂に虹は見えない−
【北米ミンカス族の諺】

青年は岩肌をしたたる水を見つめていた。まるで、生まれてはじめて見るもののように──。
 晩秋の北カリフォルニア。シーズン初の雨が降ると、夏のあいだじゅう渇ききっていたガレ場が一夜にして激流の沢となる。やがて雪が積もるころ、冬だけの清流はどこまでも透明な水を集めて海への長い旅に出る。解けた雪がひと雫ずつ岩肌を流れて旅立つさまは、青年にとって地球の神秘そのものだった。