それは、角型の防水時計「マリーン」から始まった。
ダイバーズ・ウォッチのマスターピースとして時計史にその名を残すオメガ「シーマスター」。シーマスターの歴史は、オメガの防水・防塵・耐水圧への挑戦の歴史そのものでもある。
 シーマスターのファーストモデルが発表されたのは1948年。自動巻きムーブメントを搭載し、ねじ込み式のリュウズと裏蓋で高い防水性を実現したこのモデルは瞬く間に爆発的な人気となったわけだが、シーマスターを語るうえで忘れてならないのがその前身となった「マリーン」の存在である。 腕時計が一般化しつつあった今世紀初頭、オメガをはじめとする多くの時計メーカーは防水性・防塵性の追求に鎬を削っていた。時計がポケットに入れて携行するものから腕に装着するものへと変化していくに伴い、水や埃の侵入に晒される機会が格段に多くなったためである。
 オメガ初の防水時計、マリーンが発表されたのは1932年。ムーブメントが入った時計本体を防水用のもうひとつのケースに収納して密閉するという角型2重ケースを採用したマリーンこそ、オメガのダイバーズ・ウォッチ開発の原点といえる。ただし、このマリーンは単なるスポーツウォッチではなく、アールデコ・デザインを取り入れたファッション性の高い高性能な防水腕時計だったことに注目したい。当時、丸型ケースの防水時計はすでに他メーカーが特許を取得していたという経緯があり、オメガは敢えて角形ケースによる防水腕時計の開発に踏み切ったのである。
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マリーン
1937年製。オメガ初の防水腕時計の初期モデル。32 年に開発された特殊2重構造のスティールケースにより防水機能を確保。ストラップには防水性の高いアザ ラシの革を使用している。19.40mmキャリバー。
シーマスター・ファーストモデル
1948年製。14Kのピンクゴールドキャプのステンレスケ ースを使用した初期モデル。ねじ込み式のリュウズと裏 蓋を採用することで高い防水性を実現している。 28.10mmキャリバー。
シーマスター・オートマチック・クロノメーター
1949年製。シンプルな中3針の初期モデル。クロノメーター規格をクリアした自動巻きムーブメント搭載。ねじ込み式裏蓋。ステンレスケース。
28.10mmキャリバー。
シーマスター・オートマチック
1954年製。インデックスと針に蛍光を使ったモデル。ク ラシックなスモセコが印象的。ねじ込み式裏蓋。ステン レスケース。
28.10mmクロノメーターキャリバー。
シーマスター300は、ダイバーズのオリジン。
 角型ケースのマリーンで防水腕時計の分野に参入したオメガだが、その後は、より高度な防水・防塵性能を求めて丸型ケースによる防水腕時計の研究開発に着手、やがて誕生するのが自動巻き防水時計の代名詞となるシーマスターだ。シーマスターのベースモデルは、第二次世界大戦中にイギリス軍に供給された防水時計である。戦中、戦後を通じて防水時計の需要は急激に高まっていたため、オメガは戦後すぐの1948年、イギリス軍に供給したモデルに改良を加え市販を開始した。ただ、このときの一般向けの市販モデルには耐圧表示はなく、防水性能は現在の日常生活防水程度であったと言われる。本当の意味でのダイバーズ・ウォッチといえるシーマスターが登場するのはあと7年待たねばならない。
 1955年に登場したシーマスター300は、耐水圧200mを誇る本格的なダイバーズ・ウォッチ。ねじ込み式リュウズ&裏蓋、回転ベセルを装備したそのスタイルは現代のダイバーズ・ウォッチのオリジンと言われ高く評価されている。シーマスター300は、やがてその高性能が認められイギリス海軍が正式採用。また、時を同じくして一般向けとプロユースの中間に位置するシーマスター120が登場。このモデルは、高性能な本格スポーツウォッチとして世界中でベストセラーとなった。
シーマスター300
1955年製。シリーズ初の本格的なダイバーズ・ウォッ
チ。ブラックとクロームの2重になった回転式ベゼルが 特徴。一部が伸縮するセミエクスパンディング・ブレスレ ットは、2年後に登場するスピードマスターに受け継が
れている。Cal.501
シーマスター・オートマチック
1955年製。ラグの形状が特徴的な14Kケースを採用
したモデル。シーマスターにはいくつかのタイプのラグ が確認されているが、これはかなりレアだ。Cal.351
シーマスターXVI
1956年製。メルボルン・オリンピック記念モデル。オリ
ンピックの公式時計担当25周年を記念して功労賞を 受けたオメガが、それを記念して発売したモデル。18Kケース。自動巻き。25mmキャリバー。
シーマスター・オートマチック
1957年製。ブラックダイヤルと14Kキャプのインデック スおよびケースが絶妙のコンビネーションを醸し出す自動巻きモデル。ステンレスケース。
28mmキャリバー501。
シーマスター・クロノグラフ
1963年製。30分および12時間積算計とスモセコを備 えた美麗な3つ目クロノ。タキメーター機能も付く。防水ステンレスケース。強化クリスタル防。Cal.321
プロユースから、スポーツモデルまで。
 ダイバーズ・ウォッチの代名詞となったシーマスター・シリーズは、その後も数多くの派生モデルを誕生させていく。たとえば1970年発表の耐水圧600mを誇るシーマスター・オートマチック600m/2000ftプロフェッショナル。このモデルは分厚いステンレスの塊をくり抜いたワンピースケースに、文字盤側からムーブメントを装填するモノコック構造を採用。これにより気密性、耐圧性を格段に高めている。同モデルは深海油田探査を目的とする「ヤヌス計画」に採用され、調査を担当するフランスの潜水専門会社コメックスの3人のダイバーが装着し、1日4時間ずつ計8日間を250mの深海で使用したが何のトラブルもなく正確に時を刻み続けた。さらに1971年には究極のダイバーズと言われるシーマスター・オートマチック1000m/3300ftが登場。このモデルもシーマスター600mと同様のモノコック構造を採用しているが、より薄型でスマートなケース形状となっている。また耐水圧1000mは、言うまでもなくオメガ史上最高の耐水圧性能である。
シーマスター・オートマチック
600m/2000ft・プロフェッショナル
1970年製。ケースはモノコック構造で、ムーブメントは
文字盤側から装着される。9時位置のリュウズはねじ込 み式で、ロック用ナットで固定される。右側の赤いボタンで回転ベゼルの固定と解除を行う。Cal.1002
ジャック・マイヨールが愛した、シーマスター120。
ジャック・マイヨールが愛した、シーマスター120。
 オメガはその後、時計界の趨勢となるクォーツムーブメント搭載モデルも次々に発表。なかでも注目を集めたのが、伝説のフリーダイバー、ジャック・マイヨールが愛用していたシーマスター120mだ。映画「グラン・ブルー」のモデルにもなった彼は、1981年に素潜りでの深度世界記録101mを樹立。その時に使用していたのがシーマスター120mである。彼が愛用したこのモデルは、ダイバーズウォッチとは思えないほど薄型で洗練されたスタイル。シーマスター120mは1980年代後半の世界的なダイバーズ・ウォッチブームの火付け役とも言われている。また、マイヨールはこの後もシーマスターを愛用し続け、1995年からは彼の名を冠した限定モデルも生産されるようになった。
シーマスター・オートマチック120m
1971年製。プロモデルと一般向けモデルの中間に位 置する存在。本格的なスポーツウォッチとして人気を博 した。ねじ込み式リュウズ。回転ベゼル。ステンレスケ
ース&ブレス。自動巻き。Cal.1002
シーマスター・オートマチック1040
1972年製。タキメーター、1時間積算計、12時間計、ス モセコを備えた自動巻きクロノグラフ。カレンダー付き。 6気圧防水。